河内紀氏も紹介していた、村井弦斎の短編「大発明」。「庚寅新誌に連載(明治二十六年二月ー三月)された」とのことですが、同誌はたぶん明治新聞雑誌文庫あたりでないと閲覧できないので、ひとまず近代デジタルライブラリーで読める短編集『文車』(1906(明治39)年刊)から引用します。
「発明の種類は人類に幸福を与ふべきものに限る。之に反するもの便(すなわ)ち軍事上の発明の如きは如何に新奇と雖(いえど)も決して採らざるなり」との条件で開催された、賞金一千万ドルの発明コンテスト。日本人少年が作った「顕響器」が優勝し、主催者の令嬢と結ばれるに至るサクセスストーリーです。
この「顕響器」(小さな音を大きくする機械)は、『酒道楽』をはじめ村井弦斎のあちこちに出てきます。よほど気に入っていたのでしょう。
ただ、私をうならせたのは上記のありがちなストーリーではなく、結末の一文です。
「讖」という字は「予言」という意味です。「シン」と読むのが正しいようです(『漢語林』より)。
時として小説が現実を変えることもある。それが村井弦斎の信念です。