お富嬢からの緊急の蓄音器通信を聞くために、東京に集結した発明会の面々。しかし、かんじんの録音盤を郵便局が紛失したらしく、会議は大騒ぎになります。
※
「私の知つて居る小説家に五年も六年もかヽつて一大長篇を書いて居るものがありますが其人の話にも長い内には色々な災難があるもので或時沢山の原稿を郵便物として郵便箱へ投函したらそれが先方へ着かない、何(ど)うしたことかと調べてみたら悪漢が郵便箱の中の郵便物を盗み出して不要の者を途中へ捨てたのやら或は配達人が其中を引き出して見て捨てたのやら」
(近代デジタルライブラリー『日の出島 曙の巻 上下巻』 189/197)
※
「俺の知り合いの劇画原作者が」みたいな感じですが、弦斎の実体験です。こうした郵便事故は連載中に二回あったらしく、腹にすえかねた末に小説のネタにしたのでしょう。
電信でこの報を聞いた雲岳女史が激怒し、逓信大臣の星亨(ほしとおる)と談判すると息巻いたところで『曙の巻』は終わり。「明治百年まで続きませう」と言われたこの一大長篇も、次の『朝日の巻』が最終章です。