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森銑三『明治東京逸聞史2』(平凡社 東洋文庫 1969) その1 「よく読まれる小説」

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 同書373ページ「小説」の項。『国民雑誌』(1911(明治44)年4月号)の「よく読まれる小説」なる記事より。
 

  ※
 「よく読まれる小説」と題して、或貸本屋の話を載せている。これもまた全部が全部そのままには受取りかねるが、とにかく出して置こう。
 徳富蘆花の「不如帰」と、木下尚江の「良人の自白」とが、貸本屋始まって以来の人気を呼んで、盛んに読まれる。そこへまた蘆花の「寄生木」(やどりぎ)が出て、これも喜ばれている。次に漱石の「それから」「門」、花袋の「妻」「縁」、藤村の「春」、白鳥の「落日」、泡鳴の「放浪」、荷風の「冷笑」、草平の「煤煙」、未明の「闇」などが、それぞれに人気を呼んでいる。
 「二葉亭全集」「独歩全集」よりは、「紅葉全集」「露伴叢書」の方が喜ばれる。「八犬伝」「弓張月」「水滸伝」などが、やはり侮りがたい勢力を持つ。探偵文庫のようなものが存外出る。―
  ※

 …『食道楽』や『日の出島』はもう流行らなくなってたのでしょう。まあ、木下尚江の非戦小説がまだ売れてたのはちょっとうれしいです。明治44年は大逆事件後なので、木下尚江の著作に希少価値が出たというだけの可能性もありますけど。

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